経営事項審査と建設業の保険活用例

建設業にとっての保険
建設事業者からほけんの窓口にお問い合わせが多い保険として、生命保険を用いた借入金対策等を目的とした保険、役員退職金や従業員退職金等の福利厚生を目的とした保険、従業員の就業中のケガや労災事故に備える保険、工事作業中の賠償責任保険、作業完了後や引き渡し後に設計や作業ミスにより事故が発生した場合に備える賠償責任保険がありますが、このコラムでは、公共工事には欠かせない「経営事項審査」と保険を主なテーマとして取り上げていきます。

建設業にとっての保険

経営事項審査とは

経営事項審査とは

経営事項審査とは、公共工事の競争入札に参加しようとする建設事業者が必ず受けなければならない審査です。
この審査は「経営状況(Y)」と「経営規模(X)」、「技術力(Z)」、「その他の審査項目(社会性等)(W)」について数値化し評価するものです。

各項目の点数から「総合評定値(P)」が算出され「経営事項審査結果」として公表されています。
そして、「総合評定値(P)」と「発注者別評価」とをあわせて建設工事の業種ごとに格付けが決定され、入札対象の工事規模が決まります。

一般的には評点アップに取り組む事業者が多いですが、入札を希望する工事規模にあった格付けを取得するためにあえて点数を抑える事業者もいるようです。

経営事項審査評点アップのポイント

総合評定値(P)は、完成工事高(X1)・自己資本額および平均利益額(X2)・経営状況(Y)・技術職員数および元請完成工事高(Z)・その他の審査項目(社会性等)(W)の5つの項目にそれぞれ決まった係数をかけて合計したものとなります。
ここではすべての業種に影響し中小企業でも取り組みやすいYとWについて簡単に触れておきます。

経営状況を評価するY点は8つの審査項目から算出されますが、中小規模の事業者の場合に取り組みにより点数の差が出やすい指標は「総支払利息比率」「負債回転期間」「総資本売上総利益率」「自己資本比率」の4つと考えられます。

これらに関連する費目について、翌期に備え見直しを行うことで評点アップの可能性がありますので、どのような取り組みをすればいいかも見えてくるかもしれません。

W点については、すでに取り組み済の事業者も多いでしょう。即効性のある評価項目としては、「建設業退職金共済制度」「退職一時金制度若しくは企業年金制度」「法定外労働災害補償制度」「防災協定の締結(締結している業界団体に加入することで対象)」「建設機械の保有状況(1台保有でW点5点)」等が考えられます。

人材育成と経営事項審査

人材育成と経営事項審査

建設業界においては、他の業界と同様あるいはそれ以上に「人手不足」「高齢化」「若年層の入職定着率が低い」ことが課題といわれています。
経営事項審査においては、若手を採用し育成することでW点の加点や技術職員としてのZ点の加点も見込むことができます。

そのほかにも、建設業経理検定試験やCPD単位取得数、建設キャリアアップシステムの技能レベル向上者数等もW点の評価項目です。育成した技術職員の退職により加点がなくなってしまうことを防ぐためにも、また若年層の定着を図るためにも「働き方改革」「職場環境の改善」「福利厚生の充実」も必要かもしれません。

退職金制度で経営事項審査評点アップ

中小企業退職金共済

掛金は全額損金算入となります。退職金は退職者本人からの請求に対して本人に直接支払われることや、積み立てられている資金を会社として使うことができないことに注意が必要です。

生命保険(定期保険)を活用して自社の退職金制度をつくる

払込保険料の一定割合を損金算入(一定の要件を満たせば、全額損金算入)できます。従業員に万が一のことがあった際の弔慰金の資金準備として活用することができます。

また、一時的な業績悪化の際には加入している生命保険を解約し、解約返戻金(益金)を得ることによって赤字を回避することも期待できます。

企業型確定拠出年金(企業型DC)

事業主掛金は全額損金算入でき社会保険料の算定基礎の対象にもなりません。従業員が加入者掛金を上乗せした場合には全額所得控除となります。加入者は転職時に年金資産を持ち運ぶことになる(転職先企業でも企業型DCに加入できる)ため、制度を導入しておくことで企業型DC導入済の会社からの転職者採用にあたってプラスに作用するかもしれません。

これら「退職一時金制度」あるいは「企業年金制度」のいずれかの導入により、W点で15点の加算となります。
いずれにしても「福利厚生の充実」にも寄与いたします。

また、「退職金制度」とは別の評価項目として「建設業退職金共済制度」に加入・履行することでもW点15点の加点となります。(「退職金制度」とあわせれば、合計W点30点となります)

役員退職金準備と経営事項審査

役員退職金準備と経営事項審査

会社経営に尽力してきた社長自身の勇退時、長年にわたって社長を支えてきた役員の退職時には役員退職金を受取りたい・支給したいと考える事業者が多いと思います。

しかし、業績が芳しくなく利益があがっていなければ、①役員退職金支給を減額する②役員退職金を支給して赤字決算とすることになってしまうかもしれません。
赤字決算となると、自己資本額および平均利益額(X2)や経営状況(Y)の点数が下がり、結果として経営事項審査評点も下がることがあります。

そこで、生命保険を活用し役員退職金の準備をすることで役員退職時の決算に左右されずに社長自身の退職金を受取るあるいは役員に退職金を支給することができます。

また、一時的な業績悪化の際には加入している生命保険を解約し、解約返戻金(益金)を得ることによって赤字を回避することも期待できます。

労災上乗せで経営事項審査評点アップ

保険会社の業務災害保険や上乗せ労災保険、共済等に加入することで加点(退職金と同様にW点15点)となります。

条件としては、

  1. ①政府労災に加入していること
  2. ②業務災害と通勤災害のいずれも対象であること
  3. ③死亡及び後遺障害1級から7級まで補償していること
  4. ④自社従業員とすべての下請負人とその従業員まで補償していること
  5. ⑤施工するすべての工事(共同企業体及び海外工事は除く)を補償していること
  6. ⑥経営事項審査の審査基準日(決算日)を含む月が保険期間となっていること

の6つとなります。

人材定着のために福利厚生の一環として、補償充実を図るという考え方もあります。

自社株高騰による事業承継等の課題

業績が好調な会社や営業年数の長い会社、土地等を所有している会社等では自社株の価値が高騰していることがあります。
事業承継対策や相続対策やM&Aを検討する際にも自社株の評価額を知っておくことがより重要になったと考えられます。

まとめ

まとめ

建設業を取り巻くリスクはさまざまです。
それらのリスクに対応する保険もさまざまですが、「法定外労働災害補償」や「生命保険を活用した退職金制度」のように、経営事項審査の評価に直結する保険もあります。

保険を活用し組み合わせることで事故に備えることはもちろん、長期的な業績変動に備え経営事項審査対策(赤字対策)も可能になります。
また、経営事項審査対策に限らず人材の採用・育成・定着のために福利厚生の一環として保険を活用することもできます。

会社が地域のなかで安定的に発展していくためにも、大切な従業員のためにも、保険の有効活用について見直してみるのもいいのではないでしょうか。

公開日:2022年7月12日