D&O保険(会社役員賠償責任保険)とは

D&O保険(会社役員賠償責任保険)とは

D&O保険とは、Directors&Officersの略で、Directors(取締役)と Officers(執行役・監査役等)のための賠償責任保険です。役員の業務に起因して発生する損害賠償請求リスクを補償します。

昨今、役員責任をめぐる環境は大きく変化しており、コーポレート・ガバナンスに関する社会の目は厳しさを増しています。
役員の方々が安心して経営に専念し、有能な役員を確保するためにD&O保険は必要不可欠な保険であるといえます。

その一方で保険の仕組みが複雑であり、訴訟事例も公にされることが少なく、理解し難い保険ともいわれていますのでこちらで詳しく解説いたします。

訴訟の高額化

会社法上は、一定の条件を満たす場合を除き、役員の責任限度額は設けられていないため、役員が追及される損害賠償責任の範囲は、原則として会社役員の義務違反に起因して会社が実際に被った損害のすべてということになります。

このため、株主代表訴訟などにおいて、被告役員が支払いを求められる損害賠償金は時として極めて高額なものとなり、実際に訴額が1兆円を超すような事案や、数百億円もの損害賠償を命じる判決も出現しています。

会社役員が負う損害賠償責任

「経営判断の原則」

会社役員が負う損害賠償責任

役員は善管注意義務(*)違反により経営判断を誤り、会社や第三者に損害を与えた場合、損害賠償責任を負います。

一方で経営判断の過程において不合理な点がない場合、役員が経営判断の結果、会社や第三者に損害を与えたとしても損害賠償責任を問われないという考え方があります。この損害賠償責任の有無の判断基準は「経営判断の原則」といわれています。

  • (*)善管注意義務
    相当程度の注意を払い業務を行う義務(会社法第330条、民法644条)

ただし善管注意義務違反の有無については詳細に司法審査が行われるため、役員の経営判断の過程において不合理な点がないことを証明できるとは限りません。役員が経営判断において損害賠償責任を負うリスクは常に存在しています。

善管注意義務のほかに役員が果たすべき義務として、以下が挙げられます。

会社に対する義務 内容
忠実義務
(会社法355条)
取締役として法令、定款、株主総会決議を遵守して、会社のために忠実に業務を遂行しなければならない。
競業避止義務
(会社法356条1項1号)
取締役がやむを得ず競業取引を行う場合には、事前に取締役会の承認を得なければならない。
利益相反取引回避義務
(会社法356条1項2号・3号)
取締役がやむを得ず利益相反取引を行う場合には、事前に取締役会の承認を得なければならない。
監視・監督義務
(会社法362条2項2号)
他の代表取締役または取締役の行為が法令、定款を遵守し、かつ適正になされていることを監視しなければならない。
第三者に対する義務 内容
一般の不法行為責任
(民法709条)
故意または過失により他人の権利を侵害した者はその損害を賠償しなければならない。
会社法上の特別責任
(会社法429条)
役員等がその職務を行うにあたり悪意または重大な過失があった場合は、当該役員は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

役員の方々が安心して経営に専念し、有能な役員を確保するためにD&O保険は必要不可欠な保険であるといえます。

損害賠償請求事例

  • ※本文記載の事例はあくまで一例であり、実際に補償対象かどうかは保険会社の個別判断となります。
損害賠償請求事例

①株主代表訴訟

会社が自社の役員に対して会社訴訟を起こさない場合に、株主が会社に代わり役員に対して起こす損賠賠償請求訴訟

  • 融資をしている取引先が倒産したことにより、融資額を回収できず、会社に損害が発生した。その責任は財務状況が劣悪な取引先に融資を行う判断をした担当役員にあるとして、株主が役員を提訴した。
  • 関連会社が、不動産投資の失敗により金融機関からの借入金を自力返済できなくなり、会社がその債務を肩代わりした。取締役に善管注意義務違反があったとして、株主から損害賠償を請求された。

②会社訴訟

会社が自社の役員に対して起こす損害賠償請求訴訟

  • 経営不振の子会社があり、親会社の決算にも悪影響が出てしまった。早期に子会社を整理する等の処置をとるべきだったにもかかわらず担当役員が放置していたとして、会社が役員に対し損害賠償請求を行った。
  • 元代表取締役が在任中、取締役会決議を経ることなく社債を引き受けたことについて、取締役の善管注意義務および忠実義務に違反するとして、会社から元代表取締役に損害賠償請求がなされた。

③取引先

取引先などの第三者が役員に対して起こす損害賠償請求訴訟

  • 取引先からの納期を守ることができなかった。担当役員に重大な過失があったため納期遅延が発生したとして、取引先から担当役員に対して損害賠償請求が提訴された。
  • 同業他社より、引き抜いた従業員から企業秘密を不正に取得して商品開発を行っているとして、役員が訴えられた。

④従業員

従業員や従業員の遺族が役員に対して起こす損害賠償請求訴訟

  • 不当解雇によって精神的苦痛を受けたとして、従業員が役員に対して慰謝料の支払いを求める損害賠償請求を行った。
  • 女性社員から、長年に渡り差別的な賃金待遇により損害を被ったとして、役員が訴えられた。

代表的な補償条項

約款名 内容
損害賠償金 役員等が負う法律上の損害賠償金
  • ※以下は補償対象外
    税金、罰金、科料、過料、課徴金、懲罰的損害賠償金・倍額賠償金の加重された部分
    他人との特別の約定によって加重された損害賠償金 等
争訟費用 役員等に対する損害賠償請求に関する争訟によって生じた費用で、保険会社の同意を得て支出したものを補償する
会社訴訟補償 記名法人またはその子会社からなされた損害賠償請求により役員等が被った損害に対して補償する
初期・訴訟対応費用補償 約款に記載された損害賠償請求がなされた場合、役員等または会社が初期対応、訴訟対応するにあたって保険会社が認めた費用を補償する
会社補償 D&O保険によって保険金を支払うべき損害において、会社が法律、契約または定款等に基づいて適法に役員等に対して補償を行ったことにより、会社が被る損害を補償する
会社有価証券賠償責任補償 会社の有価証券の売買もしくは募集等において法令もしくは証券取引所の規則に違反したとの申し立てに基づいてなされた損害賠償請求により会社が被る損害を補償する
雇用慣行損害賠償請求 以下に起因する損害賠償請求を役員等が負った場合補償する
ア.被用者等に対して行った不当行為
イ.第三者ハラスメント
先行行為補償 初年度契約の始期日より前に役員等によって行われた行為に起因する損害賠償請求を補償する遡る期間は保険会社により異なる
被保険者間訴訟補償特約 他の役員等からなされた損害賠償請求により役員等が被った損害を補償する
第三者委員会設置費用 会社が第三者委員会を設置した場合に、会社が負担した所定の費用を補償する
  • (注)保険会社により補償内容は異なります。詳細は弊社までお問い合わせください

保険金が支払われない主な場合

以下の事由、行為に起因する損害賠償請求に対しては補償されません。

  • 役員等が私的な利益または便宜の供与を違法に得たこと
  • 役員等の犯罪行為
  • 法令に違反することを役員等が認識しながら行った行為
  • 役員等に報酬または賞与等が違法に支払われたこと
  • 役員等が公表されていない情報を利用して、株式、社債等の売買等を行ったこと
  • 身体の障害または精神的苦痛
  • 財産の滅失、き損、汚損、紛失または盗難
  • 会社または役員等が他人に対して有償で行う専門的業務の遂行に過誤があったとの申し立て

お見積りに必要な情報

  • 保険会社所定の告知書
  • 以下の資料2期分
    貸借対照表、損益計算書、個別注記表、事業報告および附属明細書

会社の財務状況によりご提案ができない場合があります。
詳細は弊社までお問い合わせください。

まとめ

役員にはさまざまな損害賠償請求リスクが存在します。
「経営判断の原則」という判断基準があるものの、裁判において詳細に審査されるため損害賠償リスクは常に存在しており、役員が安心して業務に専念するためにも「D&O保険(会社役員賠償責任保険)」が必要とされています。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的な内容を記載したものです。
法律上の損害賠償責任の有無、事故が補償されるか等については個別具体的に確認をする必要があります。
詳細は弊社までお問い合わせください。
本稿を元に意思決定をされ、直接又は間接に損害を被られたとしても一切の責任は負いかねます。

更新日:2023年6月13日