妊娠中に加入したい保険は?
出産までの費用やリスク、公的制度を解説

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妊娠中から出産にかけては多くの費用がかかります。「妊娠や出産にはお金がかかる」という漠然としたイメージはあっても、何にどれくらいの費用が必要なのか、具体的にはよくわからないという人もいるかもしれません。妊娠中や出産時にはさまざまなリスクがあり、いざという時に備える方法を知っておくことも大切です。

また、妊娠・出産のリスクを民間の医療保険でカバーしたい場合、民間の医療保険への加入は、妊活前や妊娠前がおすすめです。

ここでは、医療保険への加入は妊活前・妊娠前がよい理由の他、妊娠中や出産時にかかる費用やリスク、それらをカバーできる健康保険等の公的医療保険や公的制度について解説します。

民間の医療保険への加入は妊活前・妊娠前がよい理由

妊娠・出産のリスクに備えることを目的として民間の医療保険を検討するなら、妊娠前、もっといえば、妊活前の加入がおすすめです。

妊活中や妊娠中は入院や手術のリスクが高まるため、医療保険に加入できなかったり、加入できたとしても制限が付き、今回の妊娠・出産の治療が保障対象外になったりするケースは少なくありません。

妊活前や妊娠前であれば、加入できる保険商品数が多いため、より自分に合うプランを選択できるでしょう。

なお、妊活前に医療保険に加入すれば、妊娠や出産時の治療だけではなく、不妊治療における公的医療保険適用の入院・手術をした際に給付金を受取れる場合もあります。ただし、不妊治療に関しては保険加入後から一定期間、保障が受けられない期間を設けている保険商品があることに注意が必要です。

そのため、妊娠や出産を見越して医療保険を検討する場合は、妊活前や妊娠前のなるべく早い段階で加入するのが理想的といえます。

不妊治療については、以下の記事をご覧ください。
不妊治療は公的医療保険の適用になる?年齢制限等の条件を解説

妊娠から出産までに必要な費用

妊娠から出産までには、さまざまな費用がかかります。病気やケガで医療機関を受診すると公的医療保険が適用されますが、妊娠や出産は病気ではありません。そのため、妊娠・出産にかかる費用は、基本的に公的医療保険の適用外となります。ただ、一部公的医療保険が適用となったり、助成が受けられたりするケースもあるので、事前によく確認しておくことが大切です。

妊娠中と出産時にかかる費用について、それぞれ見てみましょう。

妊娠中にかかる費用

妊娠中にかかる主な費用は、妊婦健診費用です。妊娠中は、妊娠初期から出産までに計14回ほど妊婦健診を受け、血液検査等を行う場合は検査費用が必要です。妊婦健診費用は、基本的に公的医療保険適用外となりますが、住んでいる自治体から一部助成が受けられます。妊娠の確定後、自治体に届出を行うと、母子手帳等とともに妊婦健診の補助券が支給され、医療機関の窓口に提出することで妊婦健診費用から助成額が差し引かれます。補助券の枚数や金額は自治体によって異なるため、事前に確認しておくとよいでしょう。

妊娠中は妊婦健診以外に、妊娠高血圧症候群や重度のつわり(妊娠悪阻)、貧血等で通院や入院が必要になる場合があります。こうした妊娠にまつわる症状の医療費については、公的医療保険が適用され、自己負担額はかかった医療費の3割です。

出産時にかかる費用

出産時にかかる費用は、入院料や分娩料、検査・薬剤料、処置・手当料等です。厚生労働省の「出産費用の見える化等について」によれば、2022年の全施設・正常分娩における費用別の状況は以下のとおりです。

■出産費用の状況(費用項目別)(2022年/全施設・正常分娩)

費用項目内容金額
入院料妊婦にかかる室料、食事料11万8,326円
分娩料正常分娩(分娩が療養の給付の対象とならなかった場合)時の、医師・助産師の技術料および分娩時の看護・介助料28万2,424円
新生児管理保育料新生児にかかる管理・保育に要した費用5万52円
検査・薬剤料妊婦(産褥期も含む)にかかる検査・薬剤料1万4,739円
処置・手当料妊婦(産褥期も含む)にかかる医学的処置や乳房ケア、産褥指導等の手当に要した費用1万6,753円
室料差額(A)妊婦の選定により、差額が必要な室に入院した場合の当該差額1万7,441円
産科医療補償制度(B)産科医療補償制度の掛金相当費用1万1,820円
その他(C)材料費および医療外費用等、上記の項目に含まれない費用3万4,242円
妊婦合計負担額直接支払制度の利用の有無にかかわらず、実際に被保険者等またはその被扶養者に請求することとなる実費54万5,797円
48万2,294円※(A)~(C)控除後

※出典:「出産費用の見える化等について」(厚生労働省)P.25
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001143706.pdf)を基に作成

自然分娩ともいわれる正常分娩の場合、基本的に公的医療保険が適用されないため、全額が自己負担となります。ただし、出産育児一時金等の公的制度で一定金額をカバーすることが可能です。

切迫早産や帝王切開といった異常妊娠・異常分娩の場合は、手術費や入院費、治療費等に公的医療保険が適用されます。ただし、切迫早産や帝王切開は正常分娩より入院期間が長くなりがちなので、場合によっては自己負担額が高額になる可能性もあります。

妊娠・出産にまつわる入院や手術のリスク

妊娠や出産にまつわる心配ごとは、費用だけではありません。妊娠中から出産にかけては体が大きく変化し、母体や胎児にとってさまざまなリスクが生じます。なかでも、次のようなリスクは、入院や手術を伴う可能性があります。

重度のつわり(妊娠悪阻)

つわりの症状が悪化し、脱水症状や栄養障害、代謝障害等を招く状態を重度のつわり(妊娠悪阻)といい、入院による治療が必要なケースもあります。場合によっては、頭痛や意識障害、めまい、肝機能障害等の症状が現れることもあります。

切迫早産

妊娠22週以降37週未満の出産を早産といいますが、切迫早産とは、早産となる危険性が高いと考えられる状態のことです。おなかの張りや痛みが規則的かつ頻回に起こる、子宮口が開いている、破水する等、早産の一歩手前の状態で、長期入院になることも少なくありません。

妊娠高血圧症候群

妊娠高血圧症候群は、妊娠時に高血圧を発症することです。母体と胎児の両方に大きなリスクがあると判断された場合は、入院が必要になります。妊娠高血圧症候群のうち、妊娠20週以降に高血圧のみを発症する場合を妊娠高血圧症、高血圧とたんぱく尿が認められた場合は、妊娠高血圧腎症と呼ばれます。

妊娠うつ・産後うつ

妊娠中や産後に発症するうつ症状を、妊娠うつ、産後うつと呼び、病院での治療が必要な場合もあります。産前産後は女性ホルモンが大きく変化するため、ストレスに対する脳の抵抗力が低下しがちです。そこへ妊娠や出産、育児に関するプレッシャーやストレスがかかり、うつの引き金になってしまうことがあります。妊娠うつや産後うつの悪化を防ぐためには、早期に適切な治療を行うことが大切です。

帝王切開等の異常分娩

帝王切開とは、腹部と子宮を切開し、外科手術によって胎児を取り出す分娩方法のことです。正常分娩を予定していたとしても、母体や胎児の状況によっては、医師の判断で緊急帝王切開になることもあります。

厚生労働省の「令和2(2020)年 医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況」によれば、一般病院での分娩に占める帝王切開の割合は27.4%となっており、増加傾向にあります。

流産

妊娠22週未満で胎児が亡くなってしまうことを流産といいます。流産の時期や状況によっては、入院や手術が必要になる場合があります。また、流産の一歩手前の状態を切迫流産といい、入院するケースも少なくありません。

妊娠・出産時に公的医療保険が適用されるケース

妊娠や出産に関わる費用のうち、医療行為とみなされるものについては、一般的な治療費と同様に公的医療保険が適用されます。公的医療保険の適用対象になるのは、重度のつわり(妊娠悪阻)や切迫早産、妊娠高血圧症候群等に伴う入院費、貧血等の治療費、帝王切開の手術費、陣痛促進剤、吸引・鉗子分娩出術費用等です。

帝王切開については、以下の記事をご覧ください。
帝王切開は保険適用になる?かかる費用と民間医療保険加入の必要性

妊娠・出産時に利用できる公的制度

妊娠や出産に関わる費用は、正常分娩であれば基本的に自己負担です。ただ、高額な費用負担を軽減するために、以下のようにさまざまな公的制度が設けられています。公的制度を適用する際には、細かい規定について、必ず事前に確認をしておきましょう。

出産育児一時金

出産すると、加入している公的医療保険から、子ども1人につき50万円(2023年3月31日以前の出産は42万円)の出産育児一時金が支給されます。なお、妊娠週数が22週に達していない等、産科医療補償制度の対象にならない出産の場合は48万8,000円です。

出産育児一時金の支給方法は、公的医療保険から医療機関に直接支払われる「直接支払制度」か、医療機関が被保険者に代わって受取る「受取代理制度」が一般的です。ただし、出産する施設がそのどちらにも対応していない場合は、出産育児一時金が支給されるのは退院後になるため、前もって出産費用を準備しておく必要があります。

出産手当金

働く女性が出産のために仕事を休んで給与が支払われない時には、勤務先の健康保険から出産手当金が支給されます。支給金額は標準報酬日額の3分の2相当額で、出産の日(実際の出産が予定日後の時は出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から、出産の翌日以後56日までの範囲内で会社を休んだ期間が対象です。

なお、国民健康保険には出産手当金の制度はありません。勤務先の健康保険に加入していないパートやアルバイト、主婦、自営業、個人事業主等は対象外です。

高額療養費制度

高額療養費制度とは、1か月にかかった医療費の自己負担額が上限を超えた場合に、超えた分の金額が払戻される制度です。上限額は年齢や所得によって異なります。高額療養費制度の対象になるのは、公的医療保険が適用される切迫早産や帝王切開等の医療行為にかかる費用です。正常分娩の費用は適用外となります。

高額療養費制度については、以下の記事をご覧ください。
高額療養費制度とは?医療費の自己負担限度額等をわかりやすく解説

医療費控除

医療費控除は、1年間の医療費が世帯合計で10万円(総所得金額等が200万円未満の場合はその5%)を超えた場合に適用できる所得控除です。医療費控除を受けるには、会社員であっても年末調整とは別に確定申告が必要です。また、医療費控除の対象となる年間医療費は、出産育児一時金や高額療養費、民間の医療保険から支給される入院給付金等を差し引いて計算する必要があります。

傷病手当金

傷病手当金は、病気やケガで仕事を休んで給与が支払われない時に勤務先の健康保険から支給される給付金で、切迫流産やつわり等で会社を休んだ場合も適用対象になります。金額は標準報酬日額の3分の2相当額で、連続する3日を休んだ後の休業4日目から支給されます。傷病手当金は、出産手当金と同様に国民健康保険にはない制度です。

傷病手当金については、以下の記事をご覧ください。
傷病手当金とは?支給条件や対象期間、計算方法について解説

妊活前・妊娠前や妊娠中に加入を検討しておきたい保険

妊娠や出産にまつわるリスクは、民間の保険で備えることも可能です。また、出産後は、子育て中のリスクや教育費に備える必要もあります。妊娠を考えるタイミングで、次のような民間の保険への加入を検討するのもおすすめです。

医療保険:妊娠・出産にかかる妊婦のリスクに備える

医療保険に加入することで、妊娠・出産の妊婦のリスクに備えられます。妊活前や妊娠前に民間の医療保険に加入している場合、帝王切開等の異常分娩の際には入院給付金や手術給付金を受取れることがあります。重度のつわり(妊娠悪阻)や切迫早産等で入院することになった場合も、保険金を受取れる可能性が高いでしょう。

一方、妊娠後に一般的な医療保険への加入を検討する場合、経過が良好であれば、週数によって新規加入も可能です。ただし、加入できても今回の出産に関しては保障対象外になる等の条件が付く場合があるため、事前に確認が必要です。

医療保険については、以下の記事をご覧ください。
医療保険とは?公的医療保険制度と民間の医療保険の違いと種類、仕組みを解説

生命保険:子育て中の万が一に備える

生命保険は、自分や配偶者に万が一のことがあった際、のこされた家族の生活を守ることを目的とした保険です。妊娠や出産をきっかけに、保護者である自分や配偶者の万が一に備えて、生命保険への新規加入や見直しを検討する人は少なくありません。すでに生命保険に加入している場合は、保障内容を今一度見直してみましょう。

生命保険については、以下の記事をご覧ください。
生命保険とは?仕組みや種類、分類、メリット・デメリット、選び方を解説

学資保険:子どもの教育費に備える

出産後、子どもの教育費に備えるための保険が、学資保険です。加入には子どもの年齢制限があり、7歳くらいまでが一般的です。なかには、出生予定日の140日前から契約できる学資保険もあります。学資保険は、加入時期が早いほど月々に払込む保険料の負担は軽くなるため、加入を検討するなら時間に余裕がある妊娠中がおすすめです。

学資保険については、以下の記事をご覧ください。
学資保険とは?メリット・デメリットや仕組みについて解説

教育資金準備のポイントについては、以下の記事をご覧ください。
知っておきたい教育資金準備のポイント

妊娠中に医療保険に加入する際の注意点

妊娠中に医療保険に加入する場合は、支払条件に注意が必要です。妊娠・出産へのリスクに備えるには、妊活前や妊娠前に医療保険に加入することが理想的とはいえ、妊娠が発覚してから医療保険を検討するケースもあるでしょう。

妊娠中の場合、手術や入院のリスクが高いため、医療保険に加入できない場合があります。また、医療保険のなかには、妊娠中でも週数と経過の状況によって加入できる保険商品もありますが、今回の妊娠・出産に関する入院や手術は保障対象外となったり、保障範囲が制限されたりするケースが大半です。

そのため、「今回の妊娠・出産のリスクに備える」という加入目的の場合は、支払条件をしっかり確認し、慎重に検討する必要があります。

妊娠・出産にはさまざまなリスクがあるため、必要な保険を見直そう

妊娠や出産にあたっては、さまざまなリスクがあり、費用もかかります。妊娠や出産にまつわる費用に不安を感じている場合や、万が一の事態に備えたい場合は、医療保険や生命保険、学資保険といった民間の保険に加入しておくのもひとつの方法です。出産後は忙しくなるので、妊娠中に将来的に必要となる保障内容を見直しておきましょう。

保険を選ぶ時は、保険の専門家に相談するのがおすすめです。「ほけんの窓口」では、保険のプランに関する質問や見積もり等が、何度でも無料で相談できます。自分に合った保険を検討したい場合は、ぜひ「ほけんの窓口」へご相談ください。

妊娠・出産のリスクに備える保険についてよくある質問

妊娠・出産のリスクに備える保険について、よく聞かれる疑問をまとめました。それぞれの質問について解説していますので、参考にしてください。

妊娠中でも医療保険に加入できますか?
妊娠中でも週数や経過の状況によって加入できる医療保険はあります。
妊娠中に医療保険に加入できたとしても、今回の妊娠・出産のリスクに備えることが加入目的の場合は、注意が必要です。異常妊娠や異常分娩等は保障対象外といった条件が付く場合が多いため、支払条件を確認して慎重に検討することをおすすめします。
正常分娩(自然分娩)の入院は公的医療保険の適用になりますか?
正常分娩は公的医療保険の適用外です。
母子ともに健康な状態で行われる正常分娩(自然分娩)は、病気やケガにあたらないため、公的医療保険の適用外となります。したがって、正常分娩にかかる費用は、全額自己負担です。民間の医療保険においても、正常分娩での入院は給付対象外であることが一般的です。ただし、正常分娩にかかる費用は公的な制度を使えば負担を軽減できます。
帝王切開になったら保険適用になりますか?
帝王切開での出産は医療行為に該当するため、公的医療保険が適用されます。
帝王切開での出産の場合、自己負担額は原則としてかかった費用の3割です。ただし、個室や少人数の病室を希望した場合の差額ベッド代や、入院中の食事代等には、公的医療保険は適用されないため、全額自己負担となります。なお、妊娠前に民間の医療保険に加入していれば、給付金が受取れる可能性があります。
妊活前や妊娠前、妊娠中に検討したほうがよい保険はありますか?
妊活前や妊娠前、妊娠中に検討したほうがよい保険として、医療保険、生命保険、学資保険が挙げられます。
妊娠・出産に関するリスクに備えるには医療保険、子育て中の万が一に備えるには生命保険、教育資金に備えるには学資保険を検討するとよいでしょう。保険を検討する際は、産後よりも比較的時間がある妊活前や妊娠前、妊娠中に、必要な保障について見直しておくことをおすすめします。

監修者プロフィール

黒川 一美
日本FP協会 AFP認定者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士

大学院修了後、IT企業や通信事業者のセールスエンジニア兼企画職として働く。出産を機に退職し、自分に合ったお金との向き合い方を見つけるため、FP資格を取得。現在は3人の子育てをしながら、多角的な視点からアドバイスができるFPを目指して活動中。FPサテライト株式会社所属FP。

黒川 一美
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