医療保険の必要性

公的医療保険では保障されない費用がいくつかあります。
代表的なものでは、「差額ベッド代」や「入院中の食事代・その他諸費用」、
「先進医療の技術料」等があげられます。
そのため、公的医療保険で保障されない費用と、
入院時に必要になる治療費以外の費用や出費も考慮しておくことが大切です。
医療保険の必要性とは
「健康保険のような公的医療保険があれば民間医療保険はいらないのでは?」と感じている人もいるのではないでしょうか。
確かに、健康保険のような公的医療保険は治療費の一部を公的機関が負担してくれます。それに対し、民間医療保険は、単に治療費の自己負担額を負担してくれるだけでなく、病気やケガを治療する時にかかるさまざまな費用をカバーしてくれます。
そのため、民間医療保険に加入する時は、入院や手術の費用負担に伴い、家計の収支バランスが崩れることも想定して、必要性を判断することが大切です。
ここでは、公的医療保険と民間医療保険の違いを確認し、自分にとって民間医療保険が必要なのかを確認していきましょう。
医療保険の目的:病気・ケガに対応するため
民間医療保険は、病気やケガを治療する際に発生する、公的医療保険ではカバーできない金銭的な負担に備える目的で加入します。
公的医療保険は原則全国民が強制的に加入しており、加入先は以下のように職業によって異なります。
- 自営業・フリーランス・無職:国民健康保険
- 会社員:健康保険(組合健保、協会けんぽ)
- 公務員・教職員:共済組合
- 船員:船員保険
また、上記とは別に75歳以上の人は、後期高齢者医療制度の対象になります。

病気やケガを負った際に、病院やクリニックをはじめとする医療機関で診察・治療・投薬等の医療行為を受けた場合、公的医療保険に加入していると支払窓口に保険証を提示することで医療費の自己負担額が1〜3割で済みます。
自己負担額が、ひと月あたりの上限額を超えると、超過した金額が払い戻される高額療養費制度も利用可能です。
一方で、公的医療保険制度を利用しても少なからず自己負担が発生し、公的医療保険制度に対応していない費用は全額自己負担となります。加えて、入院することで働けなくなり、収入が減少する可能性があります。
実際に入院した場合に、公的医療保険を利用しても、医療費の自己負担額と、入院することで得られなくなった収入(逸失収入)で、以下のような負担が発生します。
直近の入院時の自己負担費用と逸失収入の総額 | ||
---|---|---|
平均 | 100万円以上の割合 | |
20歳代 | 27.3万円 | 6.30% |
30歳代 | 24.0万円 | 4.40% |
40歳代 | 26.7万円 | 4.20% |
50歳代 | 36.3万円 | 7.60% |
60歳代 | 31.5万円 | 5.10% |
全体平均 | 30.4万円 | 5.50% |
第Ⅱ章 医療保障 直近の入院時の自己負担費用と逸失収入の総額を基に作成
自己負担額と逸失収入の合計は、年代によって約24〜36万円ほど発生しているだけでなく、100万円以上発生している人も年代問わず一定数存在することがわかります。
そこで、民間医療保険に加入し、保険金や給付金を受取ることで、公的医療保険ではカバーしきれない費用を補うことが可能です。
【医療保険の選び方】
民間医療保険の保障内容
多くの民間医療保険においては、入院給付金と手術給付金をメインの保障としています。
入院給付金は、保険期間内に病気やケガで入院した場合に給付金を受取れます。多くの場合で「入院給付金日額 × 入院日数」のように入院した日数に応じて給付金の額が決まる仕組みです。
手術給付金は、病気やケガを治療するために所定の手術を受けた場合、給付金を受取れます。「入院給付金日額 × 倍率」によって決まり、倍率は受けた手術の種類に応じて異なる場合と、手術の種類にかかわらず固定の場合があります。
また、入院した日数や受けた手術の内容にかかわらず、公的医療保険制度の自己負担額と同額の保険金を受取れる、実損払い方式の医療保険や、入院したら、まとまった金額を受取れる一時金タイプの医療保険も存在します。
加えて、必要に応じてさまざまな特約を付加することで、高額な自己負担が発生する先進医療や、通院治療等に備えることが可能です。
公的医療保険の保障範囲
公的医療保険の対象となるのは、所定の条件を満たした保険診療を受けた場合です。
医療機関で保険診療を受けた場合、支払窓口に健康保険証を提示すると、以下のように年齢や所得によって決められた割合の自己負担で済みます。
自己負担の割合 | |
---|---|
小学校入学前 | 2割負担 |
小学校入学後〜70歳未満 | 3割負担 |
自己負担の割合 | ||
---|---|---|
現役並みの所得がある人 | 左記以外 | |
70〜74歳 | 3割負担 | 2割負担 |
75歳以上 | 1割負担 |
例えば、30歳の人が病気によって入院し、手術も受けた結果、20万円の医療費がかかった場合、自己負担する金額はその3割である6万円となります。

高額療養費制度
高額療養費制度とは、医療費が高額になった場合に、年齢や収入に応じて、一定金額を超過した部分が払い戻される制度です。
70歳未満の人が高額療養費制度を利用する場合、ひと月あたりの自己負担上限額は以下の通りです。
適用区分 | ひと月あたりの自己負担上限額 |
---|---|
年収約1,160万円~ | 252,600円+(医療費-842,000)×1% |
年収約770~約1,160万円 | 167,400円+(医療費-558,000)×1% |
年収約370~約770万円 | 80,100円+(医療費-267,000)×1% |
~年収約370万円 | 57,600円 |
住民税非課税者 | 35,400円 |
(https://www.mhlw.go.jp/content/000333279.pdf

・健康保険加入者:標準報酬月額(社会保険料を算出する際に基準となる所得)
・国民健康保険加入者:旧ただし書き所得(前年度の総所得から基礎控除(33万円)を引いた金額)
仮に年収が約370〜約770万円の人が入院し、ひと月の医療費が100万円で窓口負担が30万円の場合、自己負担限度額と払い戻される額は以下の通りです。

ひと月の自己負担限度額=80,100円+(医療費-267,000)×1%
=80,100円+(1,000,000円-267,000)×1%
=87,430円
高額療養費制度から払い戻される金額=窓口負担額 - ひと月の自己負担限度額
=30万円 - 87,430円
=212,570円
このように、高額療養費制度を利用することによって、仮にひと月で100万円の医療費が発生した場合も約9万円の自己負担で済みます。
限度額適用認定
高額療養費制度は、加入している公的医療保険から超過分が後日払い戻される仕組みのため、一度ご自身で立て替えなければなりません。
そこで、入院する前に「限度額適用認定証」を取得し、医療費の支払い時に医療機関の窓口に健康保険証と限度額適用認定証を提出すると、窓口で支払う金額が高額療養費制度の上限額までで済みます。
限度額適用認定証は、加入中の公的医療保険を管轄する地方自治体や健康保険組合に所定の書類を提出することで申請可能です。
医療費控除
医療費控除とは、年間の医療費自己負担額が一定金額を超えた場合に、超過分が課税所得から差し引かれる制度です。
課税所得とは、所得税や住民税を計算する時に対象となる所得のことを指し、医療費控除を利用することで課税所得の金額が少なくなり、税金の負担を減らせる可能性があります。
医療費控除の対象となる金額は、以下の計算式で求められます。

・実際に支払った医療費の合計額 - 保険金等で補てんされる金額※1 - 10万円※2
※1保険金等で補てんされる金額とは生命保険契約で受取った給付金や公的医療保険から支給される高額療養費、出産一時金等 ※2その年の総所得金額等が200万円未満の人は総所得金額の5% ※3所得税率は、課税所得額に応じて決められるここで、以下のモデルケースにおける医療費控除の金額を計算してみましょう。
- その年の総所得金額等:300万円
- 支払った医療費の合計額:15万円
- 保険金等で補てんされる金額:3万円
医療費控除=実際に支払った医療費の合計額 - 保険金等で補てんされる金額 - 10万円
=15万円 – 3万円 - 10万円
=2万円
よって、このモデルケースでは、2万円がその年の課税所得から差し引かれて、所得税や住民税が計算されます。
ただし、医療費控除を受けるには、確定申告や還付申告で申請が必要です。
※上記説明は、2020年4月現在の税制・税率に基づき作成しております。税制・税率は将来変更されることがあります。詳しくは、税理士または所轄の税務署にご確認ください。公的医療保険適用外の費用
民間医療保険は、公的医療保険では保障されない費用や損失に備えることができます。代表的なものは、以下の通りです。
- 差額ベッド代
- 先進医療の技術料
- 入院中の食事代・その他交通費等の諸費用
- 仕事や家事・育児ができないことによる出費の増加や収入の減少

差額ベッド代
差額ベッド代は、個室や少人数部屋(2~4人)に入院した場合に必要となる費用です。ただし、病院都合で個室や少人数部屋に移動した場合差額ベッド代は発生しません。
差額ベッド代の費用平均は、以下の通りです。
1日あたり平均徴収額(推計) | |
---|---|
1人室 | 7,837円 |
2人室 | 3,119円 |
3人室 | 2,798円 |
4人室 | 2,440円 |
合計 | 6,188円 |
(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000400350.pdf

差額ベッド代は医療機関ごとに定められているため、入院先の医療機関によっては高額に設定されていることもあります。個室や少人数部屋を希望する方には重い負担となる可能性があるため、注意が必要でしょう。
医療保険の入院給付金は、差額ベッド代の補てんにも活用でき、自分が望む環境で病気やケガを治療できる可能性が高まります。
先進医療の技術料
先進医療とは、高度な医療技術を用いた新しい治療法のうち、治療効果や安全性が一定の基準を満たし、厚生労働大臣が定めた医療技術のことです。
先進医療の技術料は、公的医療保険の対象外であり、全額自己負担となります。
- 陽子線治療:約270万円
- 重粒子線治療:約309万円
- 高周波切除器を用いた子宮腺筋症核出術:約30万円
先進医療技術 | 技術料 (1件あたり平均額) |
平均入院期間 | 年間実施件数 | 実施医療機関数 |
---|---|---|---|---|
陽子線治療 | 2,697,658円 | 19.8日 | 1,295件 | 15 |
重粒子線治療 | 3,089,343円 | 9.6日 | 720件 | 6 |
高周波切除器を用いた子宮腺筋症核出術 | 302,852円 | 11.4日 | 147件 | 4 |
「令和元年6月30日時点における先進医療Aに係る費用」
(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000592187.pdf

特にがん治療の際に行われる陽子線治療や重粒子線治療の技術料は、200〜300万円と高額な技術料が発生しています。
民間の医療保険では、先進医療特約を付加すると先進医療での技術料と同額の保険金が支払われ、高額な自己負担に備えることが可能です。
ただし、先進医療の種類や対象となる医療施設は時間の経過と共に変化していきますので、詳しくは厚生労働省のホームページをご覧ください。
入院中の食事代やその他の諸費用
入院中に病院から提供された食事については、以下のような自己負担が発生します。
区分 | 平成30年4月1日から | |
---|---|---|
① | 一般の方 | 460円 |
② | 住民税非課税の世帯に属する方(③を除く) | 210円 |
③ | ②のうち、所得が一定基準に満たない方等 | 100円 |
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000117203.html
また、入院生活中には、以下のような治療費以外の費用が必要となる場合があります。
- パジャマ等の衣類
- テレビ視聴のためのテレビカード
- お見舞いに来る家族の交通費
- お見舞いに来た人へのお返し 等

このように、入院すると治療費以外にも出費がかかる場合があり、全額自己負担としなければなりません。
医療保険の入院給付金は治療費だけでなく、このような入院時の諸費用に充てることで家計への負担を抑えられます。
仕事や家事・育児ができないことによる出費の増加や収入の減少
入院期間中は病院で一日を過ごすことになるため、仕事や家事、育児、介護等が出来ず、以下のような費用や負担が発生する場合もあります。
- ベビーシッターや一時預かり、家事代行を利用するための費用
- 外食や惣菜購入の回数が増えることによる食費の増加
- 働けなくなることによる収入の減少

このように、入院すると入院費以外にも家計への負担が発生する場合もあります。医療保険に加入していると、このような入院時の家計への負担に備えられるでしょう。
医療保険の必要性について
公的医療保険をカバーする民間医療保険ですが、誰にとっても必須であるわけではなく、自分にとって必要かどうか慎重に判断しましょう。
ここでは、民間医療保険の必要性が高い人と、いらないと思われる人の特徴について解説していきます。
医療保険の必要性が高い人
以下にあてはまる人は、医療保険の必要性が高いと考えられます。
- 入院すると家計に不安のある人
- 受けられる治療や入院する環境の選択肢を増やしたい人
医療保険で備えると、医療費の自己負担や、入院時の諸費用等の負担を軽減できると考えられます。
また、医療保険の給付金によって差額ベッド代を気にすることなく個室を利用でき、ご自身が望む環境で病気やケガの治療に専念できるでしょう。
加えて、医療保険の先進医療特約で給付金が受取れることで、費用が高額な手術や治療も選びやすくなり、治療の選択肢が増える可能性があります。
医療保険がいらない、不要である可能性が高い人
以下にあてはまる人は、医療保険がいらない、または必要性が低いと考えられます。
- 十分な貯蓄があり医療費の自己負担に対応できる人
病気やケガの治療費や諸費用等をまかなう為の十分な貯蓄がある人にとって、医療保険の必要性は低いでしょう。
また、子どものように地方自治体の助成制度が利用できることが多くあり医療保険に加入しなくても自己負担額を抑えることができます。ただし、差額ベッド代等、助成制度の対象にならないものもあり、場合によっては大きな負担になることがあります。また、子どもが入院することで親の付き添いが必要となり、収入の減少が発生する可能性があるため、医療保険の必要性を慎重に判断しましょう。
医療保険のメリット・デメリット
最後に、民間医療保険の特徴を今一度確認してみましょう。
メリット | デメリット(注意点) |
---|---|
・治療費が高額になる病気に備えられる ・治療法や治療環境の選択肢が増える可能性がある ・生命保険料控除を利用できる |
・健康状態によっては加入できない場合がある ・販売されている商品の数が多く自分に合ったものを選びづらい |
生命保険料控除とは、年間で支払った保険料に応じて一定額の所得控除を受けることができます。場合によっては所得税や住民税といった税金の負担を軽減できる可能性があります。
※上記説明は、2020年4月現在の税制に基づき作成しております。税制は将来変更されることがあります。詳しくは、税理士または所轄の税務署にご確認ください。また、医療保険に加入する際は、健康状態を告知しなければならず、場合によっては加入できない可能性があります。
健康状態が不安な方のために引受基準緩和型医療保険も販売されていますが、保険料は一般の医療保険よりも割高となります。
また、医療保険は数多くの保険会社が販売しているため、保険に詳しくない人にとっては選びにくさを感じるかもしれません。保険の専門家に相談することで、自分に合った医療保険が見つかりやすくなるでしょう。
まとめ
公的医療保険制度を利用しても、少なからず自己負担が発生するだけでなく、差額ベッド代や食費のような諸費用も負担しなければならない場合もあります。また、先進医療のような健康保険が利用できない治療の技術料や収入の減少も発生する可能性があります。
そのため、民間医療保険に加入するかどうかは、このような医療費の自己負担や入院時の諸費用、収入の減少に耐えられるかどうかが重要なポイントです。
医療保険の必要性が高いか低いかは、その人の状況や考え方によって異なるため、一概に結論づけられません。保険の専門家に相談して、ご自身にとって医療保険が必要かいらないと思われるかを考えてみましょう。
・この記事は、医療保険の概要について説明しているものです。ご検討にあたっては「契約概要」「注意喚起情報」「ご契約のしおり-約款」を必ずご確認ください。