損害保険における免責とは?車両保険・火災保険の免責について解説
保険商品には、保険会社が保険金支払いの責任を負わない免責事項と免責金額があり、保険に加入する際には、免責事項や免責金額等を十分に理解することが大切です。
ここでは、自動車保険の補償のひとつである車両保険や火災保険等の損害保険について、免責事項や免責金額の考え方、免責金額設定の目的、車両保険の免責、火災保険の免責等について解説します。
損害保険の免責とは保険会社が保険金支払いの責任を負わないこと
免責とは責任を免れるという意味で、損害保険では保険会社が保険金支払いの責任を負わないことを指します。その免責の事由について書かれているのが免責事項で、保険の約款に記載されています。
保険は万が一に備えて加入するものですが、その補償範囲は無制限ではありません。免責になる事項は保険会社や保険商品によって異なりますが、故意の事故や戦争による被害等は一般的に免責となります。免責となった場合は、事故での修理代等を被保険者等が自己負担する必要があります。
免責金額は自己負担の額
損害が発生した場合に、被保険者等が自己負担する金額を免責金額といいます。損害保険では損害額の一部が免責となる場合があり、免責金額が10万円であれば、保険金の支払い対象となる100万円の損害が発生した場合、10万円が自己負担で、実際に受取れる保険金は90万円になります。免責金額が10万円で、保険金の支払い対象となる損害の額が10万円の場合は全額自己負担となり、保険金は支払われません。免責金額は契約時に設定され、免責金額の設定額が低いほど、保険料は高くなる傾向があります。
免責金額設定の目的
一般的に損害保険には、免責金額が設定されています。では、この免責金額はどのような目的で設定されているのでしょうか。ここでは、3つの目的について解説します。
契約者の保険料負担の軽減
免責金額設定の目的に、契約者の保険料負担の軽減が挙げられます。仮にあらゆる損害に対し、保険会社が保険金を支払うとすると、保険会社は保険料を高く設定せざるをえません。そのような保険料設定とせず、契約者にとっても負担の軽い保険料とするために、多くの保険商品で免責金額が設定されているのです。また、契約者が小さな損害は自費で負担する想定だったり、大きな損害にだけ備えられればいいと考えていたりする場合には、免責金額を高めに設定することで、保険料負担をさらに軽減できます。
モラルハザードの抑止
モラルハザードを防ぐことも、免責金額設定の目的といえるでしょう。モラルハザードとは、保険に加入することで、かえって病気や事故への注意がおろそかになることです。例えば、自動車保険に加入することで「事故を起こしても保険で補償される」と考えて、事故のリスクへの注意が低下してしまうことが挙げられます。しかし、免責金額が設定されていると、事故を発生させたら免責金額分は被保険者自身の負担になってしまうため、事故への注意がおろそかになりにくいとされています。
保険会社の損害調査の負担軽減
保険会社の損害調査の負担を軽減することも、免責金額が設定されている目的のひとつです。保険金の支払いが必要となる場合、保険会社は損害調査を実施します。保険金請求に対して損害調査を行うため、調査対象が増えると調査の負担が大きくなります。免責金額を設定し、調査を行わなくてもよい範囲を設定することで、保険会社の調査負担を軽減しているのです。
車両保険の免責
車両保険は、任意で加入する自動車保険の一部で、契約した車が衝突、接触等の事故によって損害を被った場合に、車両保険金額を限度に保険金が支払われる保険です。多くの場合、この車両保険には免責事項と免責金額が設定されています。それぞれについて解説します。
車両保険の免責事項
多くの車両保険では、地震や噴火、またはこれらによる津波といった自然災害による損害が免責事項となっていますが、台風や竜巻、洪水、高潮等による損害は補償の対象となる場合もあります。なお、保険商品によっては、地震や噴火、またはこれらによる津波による損害を補償する特約が用意されていることもあります。特約を付帯していれば、これらの損害も補償されますが、支払われる保険金は全損時に一律50万円等と決まっているのが一般的です。ただし、この一律の保険金より契約している車両保険金額のほうが少ない場合は、車両保険金と同額になります。
車両保険の免責金額
車両保険では、契約の際に免責金額を設定します。免責金額の設定方式は、事故の回数に関係なく免責金額が一定の定額方式と、1回目の事故と2回目以降の事故では免責金額が異なる増額方式の2種類です。保険商品によって選べる設定方式や免責金額に違いはありますが、10万円以下で設定する保険商品が一般的です。
なお、免責金額を設定していても、車が全損状態の場合は全額保険金が支払われ、自己負担はありません。この全損状態とは、車が物理的に修理不能なケースや、修理はできても修理費が事故時点の車両価値を上回るような状態です。
また、車両同士の事故で相手がいる場合にも、自己負担が発生しないことがあります。過失割合に応じて相手から得られた賠償金が免責金額に充当されるため、免責金額以上の賠償金を受取った場合には、実質的な自己負担がなくなるのです。
車両保険の免責金額はいくらに設定する?
車両保険の場合、多くの保険商品で、免責金額は定額方式なら10万円、増額方式なら1回目の事故は5万円、2回目以降の事故は10万円等と、免責金額の組み合わせがいくつか用意されており、その中から選択できます。一般的に、免責金額を低く設定すると保険料は上がり、高く設定すると保険料は下がります。保険料負担を軽くすることを重視するなら免責金額を高めに、万が一の際の自己負担を減らすことを重視するなら免責金額を低めに設定するとよいでしょう。
車両保険を使って保険会社から保険金の支払いを受けると、翌年以降、保険料の算出に影響するノンフリート等級が下がり、加えて事故有係数適用期間が設定されるため翌年以降の保険料は高くなります。そのため、車両保険に加入していても、少額の修理であれば保険を請求しない人もいます。
火災保険の免責
火災保険は、所有されている建物(住宅)や、住宅内にある家財の損害を補償する保険です。火災等で建物・家財が被害を受けた際に保険金が支払われますが、火災保険にも免責事項と免責金額があります。それぞれについて解説します。
火災保険の免責事項
火災保険では、戦争や外国の武力行使・内乱等による損害や、地震や噴火、またはこれらによる津波による損害、核燃料物質による損害が免責となっています。このような場合、保険会社が保険金を支払うことが難しい甚大な被害となる可能性があるためです。ただし、地震保険では、地震や噴火、またはこれらによる津波による損害は補償対象となっています。
これらの他、契約者本人・家族の故意による損害や、重大な過失によって発生した火災による損害、法令違反によって発生した損害についても免責となっています。
火災保険の免責金額
火災保険の免責金額の設定方法には、フランチャイズ方式とエクセス方式の2種類があります。フランチャイズ方式は、一定金額までは全額自己負担で、一定金額を超えたら全額保険金が支払われる方式です。エクセス方式は、一定の免責金額を定め、損害額から免責金額を除いた金額が保険金として支払われる方式です。例えば、フランチャイズ方式で免責金額を20万円とした場合と、エクセス方式で免責金額を20万円とした場合では、支払われる保険金額は以下のようになります。
■フランチャイズ方式とエクセス方式で受取れる保険金額
損害の額 | フランチャイズ方式の支払保険金 (免責金額20万円) | エクセス方式の支払保険金 (免責金額20万円) |
---|---|---|
3万円 | 0円 | 0円 |
25万円 | 25万円 | 5万円 |
30万円 | 30万円 | 10万円 |
火災保険の免責金額はいくらに設定する?
火災保険では、免責金額を0円、5,000円、1万円、5万円、20万円等の数パターンから選択できるのが一般的です。選択できる額は、保険会社や火災保険の種類によって異なります。選べる方式も保険会社や保険商品によって異なり、フランチャイズ方式とエクセス方式の両方から選べる場合もあれば、片方しか用意されていない場合もあります。また保険商品によっては、火災と風災・ひょう災・雪災で、免責金額を変えられる等、補償内容ごとに免責金額を設定できる商品もあります。
車両保険と同様に、一般的に火災保険も免責金額を低く設定すれば保険料は上がり、高く設定すれば保険料は下がります。そのため、保険料と自己負担のバランスを考えながら設定しなくてはいけません。基本的には、損害があった際に負担できる金額を免責金額としておくとよいでしょう。火災保険は火災だけでなく、落雷や風災、ひょう災、雪災、水災等、自然災害に広く備える保険です。ハザードマップ等を確認し、住んでいる地域で発生する可能性の高い災害については、免責金額を低く設定しておくと安心です。
免責事項や免責金額を確認して保険を検討しよう
車両保険や火災保険等の損害保険には、多くの場合、免責事項・免責金額があります。保険金が支払われる条件や支払われる保険金の額に関係するため、保険に加入する際は、免責事項・免責金額の確認が必要です。
また、地震保険は単独での加入ができず、火災保険とセットでの加入が前提となります。「ほけんの窓口」では、無料で損害保険に関する相談が可能です。損害保険について疑問や関心がある場合は、お気軽にご相談ください。
- ※特約の名称や補償内容は保険会社ごとに異なります。
- ※当ページでは自動車保険や火災保険に関する一般的な内容を記載しています。個別の保険商品等の詳細については保険会社および取扱代理店までお問い合わせください。
(2024年3月承認)B23-104377
監修者プロフィール
黒川 一美
日本FP協会 AFP認定者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士
大学院修了後、IT企業や通信事業者のセールスエンジニア兼企画職として働く。出産を機に退職し、自分に合ったお金との向き合い方を見つけるため、FP資格を取得。現在は3人の子育てをしながら、多角的な視点からアドバイスができるFPを目指して活動中。FPサテライト株式会社所属FP。