訪問看護に公的医療保険は適用される?
条件や介護保険との違いを解説
条件や介護保険との違いを解説
訪問看護は、自宅で療養する人と家族にとって欠かせないサービスです。その費用は、条件を満たせば公的医療保険・公的介護保険の適用を受けられますが、利用者の状態によってそれぞれ適用される保険や範囲が異なってきます。
ここでは、訪問看護の費用に公的医療保険・公的介護保険が適用される条件や範囲、訪問看護を利用する際の制限の他、訪問看護の負担に備える民間の保険についてもご紹介します。
訪問看護は自宅で看護師による療養上の支援を受けられるサービス
訪問看護は、病気やケガ等で療養する人の自宅に、看護師や理学療法士、作業療法士等が訪問し、主治医の指示に基づいて、適切な医療的処置や生活の介助等を行うサービスです。看護の内容は、病状の観察や血圧・体温・脈拍のチェック、医師の指示に基づく点滴や注射等の医療措置、カテーテルや人工呼吸器の管理、床ずれ防止の工夫や指導、身体の清拭や入浴介助、食事・排泄の介助および指導です。
訪問看護は、訪問介護と名称が似ているので混同されがちですが、訪問看護と訪問介護では対象者やサービスの内容が異なります。
訪問介護は、65歳以上で要介護1~5の認定を受けている人か、40歳~64歳までの特定疾病がある人を対象とするもので、ホームヘルパーが要介護者の自宅を訪問し、食事・排泄・入浴の介助といった身体介助や、掃除・洗濯等の生活援助を行ってくれるサービスです。訪問介護サービスの提供者は、介護職であって医療従事者ではないため、点滴や注射、人工呼吸器の管理といった医療行為を行うことはできません。
訪問看護に公的医療保険・公的介護保険が適用される条件
訪問看護の利用においては、条件を満たすと、公的医療保険または公的介護保険が適用されます。公的介護保険の「要支援・要介護」認定を受けている人が訪問看護を受けた場合は公的介護保険、それ以外の人は公的医療保険が適用になるのが基本です。
なお、要介護認定を受けた場合でも、厚生労働省の指定難病や、主治医から特別訪問看護指示書等がある場合は、公的医療保険が適用されます。不明な点は、自治体の窓口やケアマネージャー等に問い合わせるとよいでしょう。以下の表にまとめた、公的医療保険・公的介護保険が適用される条件について、それぞれ詳細を確認していきます。
■訪問看護に公的保険が適用される条件
年齢 | 公的医療保険が適用になる人 | 公的介護保険が適用になる人 |
---|---|---|
40歳未満 | 主治医の判断により訪問看護を利用した人 | なし(公的介護保険未加入のため) |
40歳以上65歳未満 | 右記以外で主治医の判断により訪問看護を利用した人 (厚生労働省の指定難病の人など、公的介護保険適用者でも公的医療保険の適用になる場合がある) | 第2号被保険者のうち特定疾病による要支援・要介護認定を受けた人 |
65歳以上 | 右記以外で主治医の判断により訪問看護を利用した人 (厚生労働省の指定難病の人など、公的介護保険適用者でも公的医療保険の適用になる場合がある) | 第1号被保険者のうち要支援・要介護認定を受けた人 |
40歳未満の場合
40歳未満の場合は、公的介護保険に加入していないので、訪問看護の利用の際に公的介護保険の適用はありません。40歳未満の人が訪問看護を利用した場合は、公的医療保険が適用されます。ただし、公的医療保険適用で訪問看護を利用するには、医師が訪問看護の必要性を認めることが条件です。利用を希望する場合は、主治医や医療機関に相談をする必要があります。
40歳以上65歳未満の場合
40歳以上65歳未満で訪問看護に公的介護保険が適用されるのは、公的介護保険制度の第2号被保険者のうち要支援・要介護認定を受けた人です。第2号被保険者が要支援・要介護認定を受けるには、16種類の特定疾病のいずれかが原因で要支援・要介護状態になっていることが条件となっています。それ以外の場合は40歳未満の場合と同様に、主治医の判断により公的医療保険が適用されます。
公的介護保険の対象となる特定疾病は以下のとおりです。
<16種類の特定疾病>
- がん(がん末期)
- 関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
- 後縦靱帯骨化症
- 骨折を伴う骨粗鬆症
- 初老期における認知症
- 進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症・パーキンソン病
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 早老症
- 多系統萎縮症(MSA)
- 糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症・糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
特定疾病については、以下の記事をご覧ください。
特定疾病とは?公的介護保険における16種類の特定疾病と診断基準
65歳以上の場合
65歳以上で訪問看護に公的介護保険が適用されるのは、公的介護保険の第1号被保険者のうち要支援・要介護認定を受けた人です。第1号被保険者は疾病等の条件はなく、要支援・要介護状態が続いていると認められれば、公的介護保険の要支援・要介護認定が受けられます。公的介護保険の適用を受けていない人の場合は、主治医の判断により公的医療保険が適用されます。
なお、公的介護保険の適用条件を満たしている場合でも、「厚生労働大臣が定める疾病等」に該当する場合や、主治医からの特別訪問看護指示書がある場合等は、公的医療保険の適用となります。
厚生労働大臣が定める疾病等とは、以下の疾病・状態を指します。
<厚生労働大臣が定める疾病等>
- 末期の悪性腫瘍
- 多発性硬化症
- 重症筋無力症
- スモン
- 筋萎縮性側索硬化症
- 脊髄小脳変性症
- ハンチントン病
- 進行性筋ジストロフィー症
- パーキンソン病関連疾患
- 多系統萎縮症
- プリオン病
- 亜急性硬化性全脳炎
- ライソゾーム病
- 副腎白質ジストロフィー
- 脊髄性筋萎縮症
- 球脊髄性筋萎縮症
- 慢性炎症性脱髄性多発神経炎
- 後天性免疫不全症候群
- 頸髄損傷
- 人工呼吸器を使用している状態(夜間無呼吸のマスク換気は除く)
公的な保険で訪問看護を受ける際には制限がある
訪問看護の利用においては公的な保険の適用を受けられますが、無制限に適用できるわけではありません。以下のとおり、保険の種類ごとに受けられるサービスには制限が設けられています。
■公的保険を適用して受けられる訪問看護の範囲
医療保険 | 介護保険 | |
---|---|---|
支給限度額 | 上限なし | 上限あり ※要介護度によって決まる |
自己負担割合 | 利用額の1~3割 | 利用額の1~3割 |
訪問時間 | 1回30~90分 | 1回の時間は以下のいずれか ・20分未満 ・30分未満 ・30分以上60分未満 ・60分以上90分未満 |
訪問回数 | 原則、週3回まで | 制限なし |
公的医療保険の適用を受ける場合
訪問看護で公的医療保険の適用を受ける際には、支給限度額がありません。ただし、1回の訪問時間は30~90分、訪問回数は原則として週3回までとなっているため注意しましょう。なお、厚生労働大臣が定める疾患等に該当した場合や、主治医から必要を認められて特別訪問看護指示書が出ている場合は、週4回以上の利用や1日複数回の利用が可能になります。
利用回数や訪問時間等の上限を超えてサービスを利用した場合、差額は全額自己負担となります。また、交通費、おむつ代、死後処置等は実費負担です。
公的介護保険の適用を受ける場合
訪問看護で公的介護保険の適用を受ける際には、訪問回数に制限はないものの、要介護状態の区分によって支給限度額が決まっています。限度額を超えて利用した分は全額自己負担になります。また、1回の訪問時間は、20分未満、30分未満、30分以上60分未満、60分以上90分未満の4区分から、必要に応じて選ぶことが可能です。
訪問看護の負担に備えるための民間の保険
公的医療保険・公的介護保険を適用して受けられる訪問看護には、一定の制限があります。ただし、制限があるのは「公的な保険が適用される範囲」のみのため、費用を自己負担とするなら、制限範囲にかかわらず訪問看護を受けることが可能です。自費でサービスを受ける分には、要支援・要介護認定を受けているかどうか、疾病の種類、利用者の年齢等も問われません。
また、自費で訪問看護を利用する場合は、制限を受けないだけでなく、訪問先や時間帯等を自由に設定できる利点もあります。ただし、サービスを受けるためには経済的な備えが必要となるでしょう。入院やケガへの備えとしては、民間の保険商品を利用する方法がありますが、多くの場合、民間の医療保険は訪問看護サービスの利用を保障対象としていません。一方、民間の介護保険では、保険会社所定の要件を満たした場合に保障を受けることができるので、公的保険の制限を超えた訪問看護サービスの利用を考えている場合は、経済的な備えとすることが可能です。
民間の介護保険は、被保険者が保険会社所定の要件を満たした場合に、給付金が支払われます。保険会社所定の要件とは、保険会社や商品によって異なりますが、寝たきりや認知症等の要介護状態が所定の期間継続しているか、もしくは公的介護保険の要支援・要介護認定を受けているといった内容が一般的です。
民間の介護保険に加入するには、主契約として介護保険に加入する方法と、加入する他の生命保険に介護の特約を付帯する方法があります。給付金が支払われる条件や給付金の受取り方、保険期間、貯蓄性の有無等は保険商品によって異なるので、加入前にしっかりチェックしておきましょう。
訪問看護の負担に備えるため民間の介護保険を検討しよう
訪問看護を利用する場合は、公的医療保険か公的介護保険の適用を受けることができます。ただし、公的保険を適用した場合には、訪問回数や支給限度額に制限があり、その範囲を超えて利用する場合は、利用料が実費となります。介護において訪問看護の利用も考えているようであれば、経済的な備えとして、民間の介護保険等に加入しておくことがおすすめです。
民間の介護保険では、商品によって、給付金が支払われる際の条件に違いがあります。加入に際しては、各保険商品を比較・検討した上で、自身のニーズにしっかり合ったものを選ぶことが大切です。介護保険選びに迷ったら、保険の専門家に相談することをおすすめします。「ほけんの窓口」では、保険のプランに関するご相談やお見積もりが、何度でも無料でご利用いただけます。医療保険の加入や見直しを検討する際は、ぜひ「ほけんの窓口」へご相談ください。
監修者プロフィール
黒川 一美
日本FP協会 AFP認定者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士
大学院修了後、IT企業や通信事業者のセールスエンジニア兼企画職として働く。出産を機に退職し、自分に合ったお金との向き合い方を見つけるため、FP資格を取得。現在は3人の子育てをしながら、多角的な視点からアドバイスができるFPを目指して活動中。FPサテライト株式会社所属FP。