小規模企業共済とiDeCoは併用できる?控除や掛金上限について解説

個人事業主や小規模企業の経営者、役員が老後資金に備える方法として、よく聞かれるのが「小規模企業共済」と「iDeCo(個人型確定拠出年金)」、「国民年金基金」です。国民年金に加入する個人事業主は、厚生年金に加入する会社員等に比べて将来、受取れる年金額が少ない上に、会社員のような退職金制度もありません。そのため、仕事を廃業・引退した後の将来に向けて、計画的に準備しておくことが大切です。
そのような老後の備えに役立つのが、小規模企業共済やiDeCo、国民年金基金です。さらに、小規模企業共済やiDeCo、国民年金基金の掛金は、全額が所得控除の対象となるため節税にもつながります。では、これらの制度は、それぞれどのような制度なのでしょうか。また、併用することはできるのでしょうか。
国民年金基金は国民年金の第1号被保険者しか加入できませんので、ここでは、小規模企業共済とiDeCoの違いや、両方を併用するメリット等について解説します。
小規模企業共済とは
小規模企業共済とは、個人事業主や小規模企業の経営者、役員等のための、積立による退職金制度です。個人事業主や企業経営者は、仕事を辞めても、会社員のような退職金がありません。そこで、個人事業主や小規模企業の経営者等が、廃業や退職時の生活資金に備えられるように作られたのが、小規模企業共済です。国の機関である独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営しています。
小規模企業共済は、毎月一定の掛金を積み立て、廃業時や退任時等に共済金を受取れる仕組みになっています。共済金の受取方法は、一括受取が基本ですが、要件を満たせば分割受取や、一括と分割の併用を選択することも可能です。一括受取の場合は退職所得扱いに、分割受取の場合は公的年金等の雑所得扱いとなり、税制上の優遇措置があります。月々の掛金は1,000円~7万円の間で500円単位での設定ができ、掛金の全額が所得控除の対象になるため、高い節税効果があります。また、掛金の範囲内で事業資金を借入れできる制度があることが特徴です。
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、国民年金や厚生年金といった公的年金に上乗せできる私的年金です。個人が任意で加入し、掛金の金額や運用方法を加入者自身が決定します。確定拠出年金法に基づいて実施されており、国民年金基金連合会が主体となって運営しています。
iDeCoに加入できるのは、20歳以上、65歳未満の国民年金被保険者です。そのため、国民年金に加入している個人事業主等(第1号被保険者)の他、厚生年金に加入している会社員や公務員(第2号被保険者)、第2号被保険者の扶養に入っている配偶者(第3号被保険者)も、基本的にはiDeCoに加入可能です。
iDeCoの掛金は、月額5,000円から1,000円単位で設定できます。ただし、加入区分に応じて上限(拠出限度額)が設けられており、個人事業主等の場合は、国民年金基金または国民年金付加保険料と合算して、月額6万8,000円が上限となります。
iDeCoの給付金の受取方法は、一時金、年金、一時金と年金の併用から選択可能ですが、原則として60歳になるまでは受給できません。
なお、iDeCoも、小規模企業共済と同様に、給付金を受取る際に税制上の優遇措置があり、掛金の全額が所得控除の対象となります。
小規模企業共済とiDeCoの違い
小規模企業共済とiDeCoには、「個人事業主等が老後資金を備えられる」「掛金が全額所得控除の対象になる」という共通点がある一方で、さまざまな違いがあります。
小規模企業共済とiDeCoの主な違いは、以下の表のとおりです。それぞれ詳しく見ていきましょう。
■小規模企業共済とiDeCoの主な違い
小規模企業共済 | iDeCo | |
---|---|---|
加入対象者 | 個人事業主、小規模企業の経営者や役員等 | 20歳以上65歳未満の国民年金被保険者 |
掛金の上限額 | 月額7万円 | 加入者区分等に応じて月額1万2,000円~6万8,000円 |
掛金以外の費用の有無 | なし | あり |
受給額の確実性 | あらかじめ定められた額(固定額の基本共済金) | 運用成績により変動 |
受給時期 | 廃業、退任等 | 60~75歳の間 |
途中解約の可否 | 可 | 原則不可 |
貸付制度の有無 | あり | なし |
加入対象者
小規模企業共済とiDeCoでは、加入対象者の範囲が異なります。
小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者、役員等を対象とした制度です。会社員や、大規模企業の経営者・役員は加入することはできません。さらに、加入対象者は、従業員数等の要件が定められています。
一方、iDeCoは、20歳以上65歳未満の国民年金被保険者であれば、原則として誰でも加入できます。以前は加入年齢の上限が60歳未満でしたが、2022年の法改正によって65歳未満に引き上げられました。
掛金の上限額
小規模企業共済とiDeCoでは、掛金の上限額と、その設定方法が異なります。
小規模企業共済の掛金の上限額は、すべての加入者が一律で月額7万円です。掛金は月額1,000円から7万円まで500円単位で自由に設定でき、加入後も増額や減額が可能です。
それに対してiDeCoは、加入者の区分によっての掛金の上限額が定められています。例えば、個人事業主等は月額6万8,000円、会社員や公務員等は企業型確定拠出年金や確定給付企業年金等への加入の有無によって月額1万2,000円~2万3,000円、会社員や公務員の扶養に入っている専業主婦(夫)等は月額2万3,000円が上限です。掛金の額は、月額5,000円から上限までの範囲内で、1,000円単位で自由に設定できます。
掛金以外の費用の有無
掛金以外の費用の有無も、小規模企業共済とiDeCoでは違いがあります。小規模企業共済に加入した場合、かかるのは掛金だけで、それ以外の費用は不要です。一方、iDeCoは、掛金に加えて運営元の国民年金基金連合会等への手数料が発生します。
iDeCoの手数料として、加入時に初期費用が2,829円かかります。また、毎月掛金を納付している場合は、掛金納付のたびに、国民年金基金連合会へ105円、事務委託先金融機関(信託銀行)へ66円、月額合計171円が必要です。さらに、還付や給付の際にはそれぞれ手数料が発生する他、金融機関によっては運営管理手数料がかかります。
受給額の確実性
小規模企業共済とiDeCoでは、受給額の確実性が異なります。
小規模企業共済では、掛金の納付月数に応じて、受取れる基本共済金の額が規定されています。6か月以上(請求事由によっては12か月以上)掛金を納めていれば、解約する場合を除いて、原則として元本割れはありません。また、毎年度の運用収入等によって付加共済金がある場合は、その金額が加算されます。ただし、掛金の納付期間が6か月未満(請求事由によっては12か月未満)の場合は、掛け捨てです。
一方のiDeCoは、運用成績によって、将来受取れる金額が変動します。資産の運用は加入者自身の責任で行われ、給付額が増えることもあれば、減ることもあります。運用商品の中には、元本が保証されないものも多いため注意が必要です。
受給時期
小規模企業共済とiDeCoでは、受給時期も異なります。
小規模企業共済で共済金を受取れるのは、基本的に、個人事業を廃業した時や役員を退任した時です。共済金の受取方法は、一括、分割、一括と分割の併用から選択できます。ただし、一括以外の受取方法を希望する場合は、所定の要件を満たす必要があります。
一方で、iDeCoの給付金は、原則として60歳になるまでは受取れません。受給開始時期は60歳から75歳までの間で自由に設定でき、受取方法は、一時金、年金(5年以上20年以下の有期年金)、一時金と年金の併用から選べます。
途中解約の可否
途中解約の可否も、小規模企業共済とiDeCoで異なる点のひとつです。
小規模企業共済は途中解約が可能ですが、iDeCoは原則として解約不可です。小規模企業共済を解約すると、加入期間が12か月以上であれば、所定の解約手当金を受取れます。ただし、加入してから20年未満で解約すると、解約手当金が掛金総額を下回り、元本割れとなるため注意が必要です。
それに対して、iDeCoは、加入者が亡くなった場合や高度障害状態になった場合等の例外を除き、原則として解約ができません。なお、月々の掛金の納付が難しくなった場合は、掛金の減額や停止が可能です。
貸付制度の有無
小規模企業共済とiDeCoの違いとして、貸付制度の有無が挙げられます。
小規模企業共済の加入者は、それまで納めた掛金の範囲内で、事業資金の貸付制度を利用することが可能です。小規模企業共済の貸付制度にはさまざまな種類があり、担保・保証人不要で金利も低く、手続きも簡単というメリットがあります。一方、iDeCoにはこのような貸付制度はありません。
小規模企業共済とiDeCoは併用できる
個人事業主や小規模企業の経営者等は、小規模企業共済とiDeCoの両方の加入要件を満たしているため、併用が可能です。前述したように、小規模企業共済とiDeCoは、どちらも掛金が全額所得控除の対象となります。拠出できる資金に余裕があれば、小規模企業共済とiDeCoの両方に加入することで、高い節税効果が期待できるでしょう。
小規模企業共済とiDeCoを併用し、それぞれ掛金を上限額とした場合、1年間の掛金合計は以下の表のようになります。この掛金が全額所得控除となれば、その分、課税所得が少なくなり、所得税と住民税の負担が軽減されます。
■小規模企業共済とiDeCoの掛金の上限額
個人事業主等 | 小規模企業の役員等 | |
---|---|---|
小規模企業共済 | 月額7万円 | 月額7万円 |
iDeCo | 月額6万8,000円 | 月額2万3,000円 |
年間掛金合計 | 165万6,000円 | 111万6,000円 |
個人事業主の場合の節税額
では、実際に小規模企業共済とiDeCoを併用した場合、どれくらいの節税効果があるのかを概算してみましょう。
まずは、個人事業主のケースです。個人事業主の小規模企業共済の掛金上限「月額7万円」とiDeCoの掛金上限「月額6万8,000円」を合わせると、年間掛金の合計額は165万6,000円になります。
例えば、課税所得金額(収入から必要経費や所得控除等を差し引いた金額)が300万円の場合、所得税率10%、住民税率10%で計算すると、小規模企業共済による年間節税額は、所得税と住民税を合わせて16万8,000円です。さらに、iDeCoによる年間節税額は、所得税と住民税を合わせて16万3,200円となります。つまり、小規模企業共済とiDeCoを併用すると、最大で年間約33万円の減税効果が期待できることになります。
会社役員の場合の節税額
小規模企業の役員等の場合は、小規模企業共済の掛金上限「月額7万円」とiDeCoの掛金上限「月額2万3,000円」を合わせて、年間掛金の合計額は111万6,000円になります。
課税所得金額が700万円の場合、所得税率23%、住民税率10%で計算すると、小規模企業共済による年間節税額は、所得税と住民税を合わせて27万7,200円です。また、iDeCoによる年間節税額は、所得税と住民税を合わせて9万1,080円です。両方を合計すると、年間で約37万円の減税効果が期待できます。
個人事業主等は小規模企業共済やiDeCoへの加入を検討しよう
退職金制度のない個人事業主等は、老後資金を自分で備えておく必要があります。個人事業主が加入する国民年金は、厚生年金に比べて将来の受給額が少ないため、老後資金に不安を感じるケースも多いかもしれません。そのような場合は、小規模企業共済やiDeCoへの加入を検討するとよいでしょう。また、個人年金保険等の民間の保険で老後に備えるのもひとつの方法です。
個人年金保険やiDeCo等、老後資金に対する備えについて迷った時は、「ほけんの窓口」への相談がおすすめです。将来に備えるための保険選びはもちろん、資産形成の悩みについてもお気軽に「ほけんの窓口」へご相談ください。
監修者プロフィール
原 絢子
日本FP協会 AFP認定者、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
自分で保険の見直しを行ったのをきっかけに、お金の知識を身につけることの大切さを実感し、ファイナンシャルプランナーとして活動を始める。モットーは「自分のお金を他人任せにしない」。一人でも多くの人がお金を味方につけて、自分の思い描く人生を歩んでほしいと、マネーリテラシーの重要性を精力的に発信している。FPサテライト株式会社所属FP。

