法人向け火災保険とは

法人向け火災保険とは

法人向けの火災保険は、法人所有の建物、設備・什器備品、商品・製品等の財物損害を補償するだけでなく、建物等が被災した場合に生じる休業損害等、法人固有のさまざまなリスクに備えることができます。

事業内容等によって必要な補償が異なりますので、自社に適した火災保険のプランニングを行うためにも、法人向けの火災保険の補償内容を知っておきましょう。

法人向け火災保険の補償内容

保険の対象

保険の対象

法人向け火災保険では、法人が所有している建物、設備(屋内・屋外)・什器備品、商品・製品等(屋内・屋外)を補償の対象にできます。その中から必要な補償対象を選び、それぞれに保険金額を設定します(補償選択には一定の制限がある場合があります)。

建物に固定されている設備や看板、門・塀、車庫・物置(66㎡未満)等は建物に含むことができます。一方、建物に固定されていない屋外の設備や看板等を補償対象としたい場合には、屋外設備として保険の対象とする必要があります。

また、受託商品や倉庫業者等が管理する他人が所有する財物等に、補償を希望される場合は、預り品を補償する特約を火災保険に付帯することや、受託者賠償責任保険等の別種保険で補償することもできます(業種等により引受が制限される場合があります)。

保険金額

保険金額

適切な保険金額を設定するためには、財物を正しく「評価」する必要があります。なぜなら、火災保険の保険金額は契約時の評価額を基準に設定するからです。評価基準には「新価(再調達価額)」と「時価」の二種類があります。

「新価(再調達価額)」とは、保険の対象となる財物と同等(同じ構造・用途、質、規模等)のものを再築または再購入するために必要な金額をベースとした評価額です。「時価」とは、再調達価額から使用による消耗、経過年数に応じた減価額を差し引いた金額をベースとした評価額です。

損害が発生した場合、「新価(再調達価額)」で保険金額を設定した契約は、「新価(再調達価額)」を基準に保険金が支払われ、「時価」で保険金額を設定した契約は、「時価」を基準に保険金が支払われます。

そのため、保険金額を設定する際に適正な評価がなされないと、事故の際に損害額どおりの保険金が支払われない場合があります。
特に建物の評価額は年月の経過とともに変動しますので、契約を締結する時だけでなく、契約を更新する都度、建物の価値を正しく評価し、保険金額を定期的に見直すことも必要となります。

大規模な建物(財物)や歴史的な建物の評価については、鑑定人による評価が必要となる場合があります。汎用の簡易評価ではなく、専門の鑑定人による書類確認や物件調査等を通じて最適な参考評価額の算出が可能となります。

評価額よりも低い保険金額の設定を希望される場合は、約定付保割合を設定し、補償限度額を下げることができます。
例えば、再調達価額1億円の建物に約定付保割合70%を設定すると、保険金額(補償限度額)を7,000万円とすることができます。万が一全損の事故が発生した場合には、建て替え時に大きな自己負担が発生することになりますが、一部損等の事故の場合には損害額と同額の補償を受けることができます。

補償内容と補償例

火災保険では、基本補償である火災、落雷、破裂・爆発による損害の他、さまざまな損害を補償します。

1.主な補償(物損害の補償)

補償内容 補償例
火災、落雷、破裂・爆発 作業中の火災や爆発による工場の損壊、落雷による機械の損害等を補償する。
風災・ひょう災・雪災 台風や竜巻による建物の損害、大雪で工場の屋根がつぶれた等の損害を補償する。
水災
(洪水・土砂崩れ・高潮等)
集中豪雨による店舗への床上浸水、土砂崩れで事務所が倒壊した等の損害を補償する(保険会社・補償プランによって床上浸水等の条件や支払い方法が異なる)。
盗難、水ぬれ、物体の落下・衝突等 泥棒によるドアや窓ガラスの破損や設備の盗難、道路を走行していた車両の衝突による損害等を補償する(商品等の盗難補償はプランによっては対象外となり、特約が必要な保険会社もある)。
破損・汚損 構内で商品を移動中に落としてしまった場合、作業中に器具を壁にぶつけて穴をあけてしまった場合等の損害を補償する。
電気的・機械的事故 過電流で設備が壊れてしまった、リフトが故障して動かなくなった等の損害を補償する(劣化・消耗・虫食い等が原因の場合は対象外)。
  • ※商品や特約の概要を明示しています。詳細な補償内容については、弊社までお問い合わせください。

これらの補償を自由に選べる火災保険と、定型プランから選ぶ火災保険があります。例えば、水災(洪水や土砂崩れ)リスクについては、各地方自治体が公表しているハザードマップを活用してリスクの大きさを確認し、補償の必要性を検討します。

また、基本補償では、地震・噴火・津波が原因となる損害は補償対象外となっています。事業用途である建物、設備・什器備品、商品・製品等は、原則地震保険を付帯することができません。ただし、事業用途建物であっても居住部分がある場合、その建物には地震保険を付帯することができます。

居住部分がない建物や、そこに収容される設備・什器備品、商品・製品等に、地震等による損害の補償を必要とする場合には、地震危険補償特約を付帯することで補償対象とすることができます。ただし、建物の建築年月や所在地等によっては、保険会社の個別判断で付帯することができない場合もあります。

2.その他の補償

法人所有の財物の補償の他、損害が発生した場合の付随的な費用や休業した場合の人件費等の費用、喪失利益を補償する特約や、被保険者である事業者が、法律上の賠償責任を負うことで被る損害を補償する特約等を火災保険に付帯することができます。

費用保険金

各種費用保険金は、基本補償が支払われる場合に付随的に支払われます。各費用保険金は、保険会社や商品によって、自動付帯、任意付帯等の違いがあります。

主な費用保険金 補償する内容例
臨時費用保険金 臨時に必要となる費用を補償する。
修理付帯費用保険金 復旧にあたり生じた仮店舗で営業する場合の賃借費用、復旧のために要した工事の割増費用、損害原因調査費用等、保険会社が認めた費用を補償する。
損害防止費用保険金 火災、落雷、破裂・爆発の事故で損害の拡大防止のために使用した消火薬剤等の再取得費用等を補償する。
緊急処置費用保険金 保険会社指定の災害復旧専門会社による、さびや腐食等による損害の発生や拡大を防止するために行った汚染の調査や汚染除去等の費用を補償する(従来の新品交換ではなく、修復により事業を早期復旧できることがある)。
失火見舞費用保険金 火災、破裂・爆発事故により、近隣に被害が及んだ時の見舞費用を補償する。
残存物取片づけ費用保険金 損害を受けた対象の残存物の取片づけに必要な費用を補償する。
地震火災費用保険金 地震・噴火・津波による火災で建物等が半焼以上となった場合等に一定の費用を補償する。
  • ※商品や特約の概要を明示しています。詳細な補償内容については、弊社までお問い合わせください。
休業損害の補償

火災等による被害で休業することになった場合は、収益の減少だけでなく、休業中でも支払わなければならない人件費等の固定費、営業を続けるための仮店舗等の営業継続費用、営業再開時にかかる広告費用等、財物損害以外にも利益喪失やさまざまな費用が発生します。休業損害補償はこのような場面を補償します。

一般的に休業損害補償は、一日あたりの粗利を基準とした補償日額と、保険金支払対象期間(約定復旧期間)等を設定し、事故発生時には補償日額に休業日数(控除する日数が発生する場合もあります)を乗じた保険金を受取ることができます。保険金支払対象期間は、事故発生後の建物再築や設備等の再稼働に要する期間を勘案のうえ設定をし、その期間が補償日額請求の上限日数となります。

また、直接仕入れ先や直接納品先の損害により、営業や製造がストップしてしまうことによる間接的な休業損害を補償する保険もあります。

家賃補償、家主費用の補償

賃貸している建物等が火災事故等により損害を受け、家賃収入が途絶えた場合に、復旧して賃貸の再開ができようになるまでの期間の家賃の損失を補償します。契約時に3か月間、6か月間、12か月間等、補償を希望する期間を設定し、その期間を上限として損失した家賃分の保険金が支払われます。

また、住宅物件では入居者が死亡した場合等、いわゆる事故物件扱いになった場合の家賃損失や原状回復費用を補償する特約もあります。

賠償責任補償特約

火災保険に各種賠償責任補償特約をつけることができる保険会社もあります。

主な賠償責任補償特約 補償する内容例
施設賠償責任 お客さまが施設内でつまずいて転んでケガをした、配膳の際にお客さまの服を汚してしまった等、施設の所有・使用・管理に起因する事故や業務遂行に起因する事故で、被保険者が、第三者への法律上の損害賠償責任を負担することで被る損害を補償する。
受託物賠償責任 他人から預かった物を壊してしまった場合等、被保険者が、第三者への法律上の損害賠償責任を負担することで被る損害を補償する。
借家人賠償責任 借用物件で火災を発生させてしまった場合等、被保険者が借用戸室に損害を与えた結果、賃借建物のオーナーに対して法律上の損害賠償責任を負担した場合の損害を補償する。
  • ※商品や特約の概要を明示しています。詳細な補償内容については、弊社までお問い合わせください。
地震BCP(事業継続計画)対応について

大地震が発生し被災した場合には、建物等財物に関する損害だけでなく、事業中断等を余儀なくされる場合もあり収益に関する損害も重大な問題となります。そのため地震におけるBCP策定が急務といわれています。

前述のとおり、居住部分のない事業用途建物等に対しては地震保険の付保ができないため、以前から地震リスクに対する補償ニーズが高くなっていました。それを受けて近年では、各保険会社から「地震BCP補償」等として、大地震発生時に経営を守る保険が用意されています。

補償内容として例えば、火災保険と同様に地震による財物補償や休業補償を得られるものや、契約時に指定した震度観測点において一定以上の震度測定がなされた場合、休業損失・営業継続費用に対する補償を得られるもの等があります。

また、加入においても保険会社によっては必要な提出書類等が簡略化されており、検討における選択肢が増えているといわれています。

法人向け火災保険の契約方法

通常は敷地内の施設ごとに建物、設備・什器備品等の保険を契約しますが、複数の敷地や施設をまとめて契約することもできます。その他にも法人向けの火災保険では、さまざまな契約方式があります。

包括契約

包括契約

一定規模の法人(グループ)が所有する1つの敷地内にある複数の物件を包括して契約することができます。保険会社所定の条件に合致することで包括契約割引が適用され、保険料を抑えることもできます。また、複数の敷地で事業所を展開する一定規模の法人向けに、複数敷地の事業所を包括して契約することもできます。

包括契約では、保険の対象個別に保険金額を設定する方法とは別に、事業所(保険対象物件)の所在が分散していて、一度に全部の物件が罹災する可能性は低いという考え方に基づく、ファーストロス契約方式という契約方式もあります。この方式では契約全体で支払限度額を設定し、合理的なプランニングをすることができます。

包括契約には次のようなメリットがあります。

  • 支払限度額や免責金額を設定することで、合理的なプランニングが可能
  • 保険期間の途中で取得した物件も一定の条件で自動補償(保険期間終了後にまとめて精算)される
  • 商品・製品等は在庫価額が変動しても支払限度額を限度に実際の損害額が補償される
  • 書類整理、保険見直し等の管理がしやすい

ただし、次のようなデメリット・注意点もあります。

  • リスクやニーズに合わせて、物件ごとにきめ細かい保険プランニングができない場合がある
  • 保険会社、保険商品によっては合計保険金額等の条件次第で包括契約ができない場合がある

免責金額の設定や補償方式の選択

1事故あたりの免責金額の設定や、選択する補償方式によっては保険料を抑えることもできます。

しかし、この場合は注意も必要となります。
例えば、風災・ひょう災・雪災補償方式を20万円フランチャイズ方式と設定した場合、損害額が20万円未満となった場合は、保険金が支払われません。損害額が20万円を超えた場合は、その全額が支払われます。一方、免責金額を設定した場合は、設定金額以下の事故の場合保険金は支払われず、被害額が免責金額を超え保険金支払いの対象になったとしても、免責金額分が差し引かれた金額が支払いの対象となります。

また、水災補償では浸水条件や縮小支払割合の選択が可能なものがあり、「実際の損害額が支払われるプラン」「一定の浸水条件に該当した場合に損害額が支払われるプラン」「一定の条件に該当した場合に一定額が支払われるプラン」等があります。昨今、集中豪雨による洪水や土砂崩れ等の災害も増えていることから対象建物の所在地や所有財物等のリスク実態に合わせたプランを選択することが重要です。

法人向け火災保険の注意点

法人向け火災保険の注意点

法人向け火災保険を検討する際、以下の点について確認をしましょう。

  • 保険の対象の評価額が適切なものとなっているかを確認する
  • 保険金額の設定が適切かを確認する
  • 他人が所有する財物が保険の対象や保険金額に含まれていないかを確認する
  • 屋外に看板や変圧器等がある場合は、屋外設備の補償漏れがないかを確認する
  • 賠償責任保険を火災保険に付ける場合、法人向け賠償責任保険等と重複していないかを確認する
  • 保険金が支払われない場合(下記)について十分に理解しておき、保険でカバーできないリスクについては別の対応策を確認する

保険金が支払われない主な場合

  • 1)契約者や被保険者等の故意もしくは重大な過失
  • 2)地震、噴火、津波による損害
  • 3)雨漏りや雨風の吹き込み
  • 4)事故の時の盗難

まとめ

法人向け火災保険は、補償内容をきめ細かく設定できます。自社のリスクに適した補償内容で契約するためには、加入時に補償の対象となる物件の状況等をしっかりと把握し、補償の重複や必要な補償の漏れがないように注意しましょう。

また、法人向け火災保険特有の契約方式、免責金額設定、包括契約等を活用することで合理的なプランニングができるケースがあることも知っておきましょう。

よくあるご質問

満期更改に伴い保険料が高くなりました。どういった原因が考えられますか。
ひとつの要因として自然災害の増加等に伴う保険料改定が考えられます。
事業専用物件の地震危険補償特約が付帯できるか否かの判断基準にはどのようなものがありますか。
補償対象の所在地、物件の構造、築年数、保険金額等が挙げられます。
住宅等の地震保険と事業専用物件の地震危険補償特約で補償内容に違いはありますか。
保険金の支払方法が異なります。住宅等の地震保険は損害の程度に応じて保険金が支払われますが、事業専用物件の地震危険補償特約では支払限度額方式、縮小支払方式のいずれかに応じて、保険金が支払われます。詳細は弊社までお問い合わせください。
休業損害の補償を検討する上で注意することはありますか。
休業損害は売上ではなく、利益を補償するものなので保険金額の設定にはご注意ください。また、賠償責任保険に特約として付帯している場合等、補償が重複している際は注意が必要です。
  • ※本文記載の特約名称や補償内容等は、保険会社によって異なることがございます。
  • ※本文記載の内容は、2023年2月現在の内容となっています。

更新日:2023年4月11日